リ総研だより

リ総研だより vol.11

夏休みの自由研究(マイクロプラスチックの観察)

センターホームページにお越しいただき、ありがとうございます。
研究開発課長の篠原です。
新型コロナウイルス感染症が拡大する中、涼を求めて自宅近くの海に出向いたところ、浜辺に多くのごみが打ち上げられているのを目にしました。
近年、海洋ごみ(特にマイクロプラスチック)が問題となっていますが、私自身マイクロプラスチックをじっくりと観察したことがなかったので、夏休みの自由研究の一環として実態を調査してみることにしました。
その結果をご報告いたします。
 

1 用意したもの
 園芸用ふるい(約5mm×5mmメッシュ)、園芸用シート(1枚)、スコップ(1つ)、ひしゃく(1つ)、バケツ(1つ)、湯垢ネット(1つ)、ふた付き容器(1つ)、ピンセット(1本)、トレー(1つ)、眼鏡用の超音波洗浄機(1台)、中性洗剤(少々)
 

2 手順
(1) 採取場所の選択
 砂浜を歩くと、ごみが多い場所と少ない場所があることがわかりました。
 地形や水深、海流、風向き、消波ブロックの有無などが影響していると思われます。
 特に消波ブロックがある場所でごみが多かったです。
 プラスチックごみは最も多く、漁網、容器、ペットボトル、カップ、ストローなど様々なものが落ちていました。
 小型のプラスチックは、色が付いていれば数ミリ程度のものでも目視で確認することができますが、透明のものを見つけることは非常に困難でした。
 今回は消波ブロック内の砂浜を採取場所とし、満潮線付近の砂を採取しました。

砂浜のプラスチックごみ採取(漁網、容器、ペットボトル、カップ、ストローなど)
砂浜のプラスチックごみ採取(満潮線)

(2) 採取、ふるい作業
 表層部の砂を採取しました。
 採取量は、およそ40リットル(1m×4m×1cm)です。
 マイクロプラスチックは一般的に5ミリ以下と言われていることから、中目の園芸用ふるいを使用して砂をふるいました。
 シート上で砂をふるうと作業がしやすかったです。
 小さなプラスチックは砂上に点在していましたが、特に満潮線付近の大きなごみや木くずなどの下に多く、それらに引っかかるように落ちているという印象を受けました。
 潮の満ち引きや風雨などの影響を受けにくい場所(打ち上げられた後に留まりやすい場所)に多いようです。

中目の園芸用ふるいを使用して砂のふるい作業
ふるい作業道具

(3) 分別
 バケツに海水を張り、ふるい終わった砂を投入して攪拌しました。
 しばらく静置すると、プラスチック、木くず、微細な海藻などが浮いてきます。
 風呂で使う湯垢ネットでこれらを掬い、別の容器に移しました。
 海水とプラスチックの比重を考えると、回収したプラスチックはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、発泡ポリスチレン(PS)と思われます。
 容器に集めたものを持ち帰り、次の工程に進みました。

ふるい終わった砂を海水に投入し攪拌後に浮いてきた木くずやプラスチックごみ
浮いてきたゴミをネットで掬う作業

(4) 乾燥
 容器のまま半日ほど天日に当て、自然乾燥させました。
 濡れたままでは作業しにくいです。

(5) 選別
 トレーに乾燥物を広げ、ピンセットを用いてマイクロプラスチックを選別しました。
 地道な作業です。
 木くずが黒いプラスチックに見えたり、潰れた発泡スチロール片が貝殻の破片に見えたりします。
 また、乾燥した微細な海藻は、静電気の影響でマイクロプラスチックに付着しやすく、取り除くのが大変でした。
 かなり丁寧に選別しましたが、見落としたものもあると思います。

回収物を自然乾燥させバットに広げたもの
ピンセットでマイクロプラスチックごみの選別作業

(6) 洗浄、乾燥
 選別したマイクロプラスチックを水道水で洗浄しました。
 浄水器のシャワーで水をかけた後、眼鏡用の超音波洗浄機に水を張り、中性洗剤を少し入れて数分間洗浄しました。
 この作業で、特に発泡ポリスチレンの汚れが落ちました。
 超音波洗浄機を使うと劣化しているプラスチックが更に砕けるのではないかと心配しましたが、大きな変化はありませんでした。
 流水で濯いだ後、自然乾燥させて全工程が終了です。
 
3 回収したマイクロプラスチック 
 カラフルで涼しげです。
 環境や生物に悪影響があるように見えないのが怖いです。
 (ふるいを通過した長い繊維状の非マイクロプラスチックも若干含まれています。)

回収したカラフルなマイクロプラスチック
回収したレジンペレット

4 観察結果
 回収したマイクロプラスチックは、詳細な分析を行っていません。
 プラスチックの種類や割合等は不明ですが、目視で約1,500個のマイクロプラスチックを回収しました。
 色は白色や半透明のものが多く、次いで緑色、青色、黒色、赤色、黄色、灰色、透明でした。
 薄いフィルムに透明度を保っているものが多かったです。

 マイクロプラスチックは、製品や製品原料となる「一次マイクロプラスチック」と、海に流失した後、紫外線や摩耗などで徐々に劣化して小さな破片状となる「二次マイクロプラスチック」に分けられます。
 砂浜で見つかるマイクロプラスチックの多くは二次マイクロプラスチックだと思っていましたが、今回の調査ではプラスチック製品の原料である「レジンペレット」が多数見つかりました。
 手順(3)の分別時に無数のレジンペレットが水面に浮かび上がってくる様子は不気味で衝撃的でした。また、透明度が高いため、目に付きにくいということもわかりました。
 レジンペレットの発生場所や発生時期は特定できませんが、流出後かなりの時間が経過していると思われる黄変したものもありました。

 二次マイクロプラスチックは大きさや形など様々でした。
 形状としては、破片状、粒状、チューブ状、繊維状、フィルム状などです。
 硬質プラスチックも多かったですが、目立っていたものは微細な発泡ポリスチレンです。
 発泡スチロールの破片や発泡ビーズに泥や土が付着し、茶色に汚れているものが本当に多かったです。
 この他、黄変したレジンペレットに良く似ていますが、中心部がつぶれて空洞になっており、押すとペコペコと凹むものが複数見つかりました。
 海藻の乾燥物にも見える物体です。
 調べてみると「徐放性肥料」で用いられる樹脂系の被覆材で、肥料成分が溶出した後に残った薄膜であることが判明しました。

 今回、海水中のマイクロプラスチックの回収についても検討しました。
 釣りで使うバッカンで水を汲みましたが、数杯程度では全く回収できませんでした。
 場所にもよるとは思いますが、海水中のマイクロプラスチックを回収するには、ポンプなどの機械を用いて海水を大量に汲み上げないと無理かもしれません。
 人力では困難と思われます。(私はあきらめました)

 自分でやってみると色々なことがわかりますね。
 私たちの近くに多くのマイクロプラスチックが存在するのは確かです。
 今回、そのことが良くわかりました。

5 再生
 マイクロプラスチックを観察して自由研究を終了する予定でしたが、集めたマイクロプラスチックを眺めていると、中原中也の「月夜の浜辺」という詩が思い出され、何かに再生(有効利用)したくなりました。
 最終的に「マイクロプラスチックを美しい絵の中に閉じ込めたくなった」ため、北九州市で活躍されている画家のAkiさん(安田亜希子さん)に事情をお話し、ご協力をお願いしました。
 ★Akiさんは学術研究都市内のコミュニティFMラジオ放送局「Air Station Hibiki」でパーソナリティもされており、美しい絵を描かれる方です。★
 Akiさんご指導のもと、アクリル絵の具とマイクロプラスチックを用いて自作したのが、これらの作品です。
 しばらく海を漂った後、私に拾われて絵の中に練り込まれてしまったのです。プラスチックにすれば、「数奇な一生だったな」と思っているかもしれません。

アクリル絵の具とマイクロプラスチックを用いた自作品1
アクリル絵の具とマイクロプラスチックを用いた自作品2

6 最後に
 今回の自由研究で用いた物品の多くはプラスチック製品でした。
 プラスチックは私たちの生活に欠かせない物であり、生活を豊かにしてくれています。
 プラスチックが悪いのではなく、私たちの取り扱いに問題があります。
 リ総研ではプラスチックのリサイクルについても研究開発を行っていますが、課題解決は容易ではなく、実態を知るほどその難しさを痛感します。
 リサイクルよりも発生させないことの方がずっと大切です。
 プラスチックをできるだけ減らす生活を心掛ける必要があります。