リ総研だより

リ総研だより vol.14

量子のお話

量子コンピューター等、量子という言葉を耳にする機会が増えています。量子の様々な現象や理論は量子力学として体系化され、半導体開発等に利用されてきました。しかし量子半導体等と、製品名に量子の名称が付かず、一般にはあまり馴染みが無い言葉でした。近年何兆通り以上もの組み合わせが有る勤務シフトや配送ルートを、僅か数秒の計算で最適な答えが判る量子コンピューターの出現で、次第にポピュラーな言葉に成り始めています。

量子とは?量子は粒子でもあり、波でもある物理量の最小単位です。スリットを持つ遮蔽板に向け、量子である電子や光子を連続して飛ばすと、後ろのスクリーンには波の干渉(重なり)を示す縞模様が現れます。不思議な事にセンサーで観測を始めると、スクリーンの模様は粒子を示す縦の線に変わります。量子が粒子と波の両方である証明になりますが、見られる事で波から粒子になる事は、実に摩訶不思議な現象です。他にも量子は同時に複数の場所に存在しうる等の事象から、私達の常識では考えられない事が、量子の世界では起こります。SFで良く登場する、瞬間に人や物が移動するテレポーテーション、今の世界と少しずつ違った世界が並行して多数存在するパラレルワールド、今の宇宙もその1つでしかない無数の宇宙が存在する多元宇宙等、量子力学ではこの様なSFの世界が理論上存在したり、実現する可能性があります。量子力学はボーア(デンマークの物理学者)やシュレーディンガー(オーストリアの物理学者)等により、20世紀前半に確立しましたが、余りに奇怪な理論なので、アインシュタインでさえ生涯信じなかったそうです。

パラレルワールドイメージ画像

シュレーディンガーは、量子コンピューターの基本原理になる重ね合わせの説明に、シュレーディンガーの猫という理論?を提唱しました。猫を殺す仕掛けの有る箱に猫を入れると、生きているか、死んでいるか、箱を開けるまで分からないと言う話です。量子力学的には、閉めている箱の猫は生きているし、死んでいる(0でもあり1でもある重なりの曖昧な状態)。箱を開けて始めて猫の生死が判る(観察され始めて量子の存在する位置が確定する)。アインシュタインが理解しないのも当然と思います。

今のコンピューターは、0か1の2進法で計算を進めます。考えられる事象を1つずつ計算しながら進める為、様々な要因がある勤務シフトの計算等は膨大な時間が掛ります。一方量子コンピューターは、0でも1でもある重ね合わせにより、様々な状況を同時に計算し観察する事で、一つの最適な解を導き出します。従来のコンピューターが努力型なら、量子コンピューターは天才型です。

もう少し量子コンピューターの説明をすれば、2つの量子ビット(0と1の重ね合わせの状態)が並ぶと4つの重ね合わせの状態、3つでは8つの重ね合わせと、並ぶ量子ビットの数が増えれば、幾何級数的に重ね合わせも増えます。100個以上も並べば数の最大単位、無量大数(10の68乗)以上も同時に計算出来ます。量子コンピューターは量子ビットをワイヤーで並列に閉じ込め、超低温に冷却する構造になっています。

量子コンピューターは、汎用性が高く将来本命と目される「量子ゲート方式」と、開発が先行する「量子アニーリング型」があります。量子アニーリング型は、勤務シフトや配送ルートの最適化等、膨大な組み合わせから最善の方法が見つかる「組み合わせ最適化」を得意としています。

量子を使う技術は量子センサーや量子暗号通信等、多方面で開発が進められており、世界中で量子に関する熾烈な開発競争が繰り広げられています。

量子コンピューターイメージ画像

 

福岡県でも、量子コンピューティング技術を搭載したソリューション開発を進める(株)グルーヴノーツ(福岡市)と、資源循環戦略コンサルティングのレコテック(株)、都市政策シンクタンクの(公財)福岡アジア都市研究所が、リ総研の重点事業「令和2年度IoT技術等を活用した効率的資源循環システム実証試験」に採択され、量子コンピューター、IoT、AI等の技術を活用した「サーキュラー・エコノミー」の実現に向けた廃プラスチックにおける流通プラットフォーム構築に取り組んでいます。

福岡県リサイクル総合研究事業化センター コーディネーター 今泉 幸男 写真

 <今回のコラム担当>

 研究開発課 コーディネーター 今泉 幸男

 

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