センター長より

【第2回】中村 崇のサーキュラーエコノミー塾

サーキュラーエコノミー塾

サーキュラーエコノミーの現状

中村 崇

 世界的なサーキュラーエコノミーの流れを作ったのはEllen MacAthur 財団の活動が大きいのはだれもが納得するのではないでしょうか。2015年EUのレポートならびにそれに基づくサーキュラーエコノミーに関するプロジェクトが次々と出されました。ほぼ並行してEllen MacAthur財団も独自の活動を進めました。多くの会員を集め、現在では世界最大のサーキュラーエコノミープラットフォームとなっています(1)。また複数のレポートを出し、サーキュラーエコノミーの啓蒙を進めています(2)。ほぼ同時時期にアクセンチャも関連のレポートを提出したり、本の出版を行っていましたが、現在アクセンチャのHPにはあまりサーキュラーエコノミーの記述はありません。

 前回のコラムに記載したように最初のコンセプトが提案されてもはや7年が経過しています。その中で何が進んだのでしょうか?まずは、言葉として多くの人がそれなりに自分のイメージするサーキュラーエコノミーを持つようになりました。それとやはり最初のEllen MacAthur財団のレポートにあったバタフライ型の循環図がかなり認識されました。このコラムは日本語ですので、わかりやすく日本の環境省が和訳した図を図1に示します。ポイントはバタフライ型で一方に従来型の無機材料で構成される製品のリユース、リサイクルなどの循環がかかれ、左側に生物資源の循環が記載されています。よく見ないとどちらも種々のタイプの循環が示されていますので、なるほどどちらの物質もいろいろな形で循環するのだなと思うことができます。そこがある意味この図のいいところであり、解釈が難しくなるところです。従来の無機素材や材料の循環と生物資源の循環とは一体何が違うのでしょう?

図1 EUが示したサーキュラーエコノミーの概念図(環境省修正)
図1 EUが示したサーキュラーエコノミーの概念図(環境省修正)

 細かい部分ではいろいろあるのですが、従来の無機素材や材料の循環は、リユース、リサイクルどんな循環でも循環に必ずエネルギーの投入が必要なことです。決して何もせずに自然に循環は起こりません。資源循環が環境ならびに脱炭素に貢献できるのは、一次資源からの素材、材料の投入に比べて負荷が小さいからです。特に金属素材を対象にすると多くの金属が原料である酸化物の還元に多大の炭素が必要であり、循環するとその部分のエネルギー消費を抑えることが可能になるためです。
生物資源の循環には光合成反応が関与し、非常に薄い太陽エネルギーでもその循環に大きな影響を及ぼすことです。また、微生物による分解反応も起こるために外部から特にエネルギーを投入せずとも循環が可能な場合があります。したがって、バイオ系の循環は大変効率よく進めることができることがあります。また最近重要性が増しているフードロスの削減にも大きな貢献ができる可能性があります。ただ、大変注意が必要なのは、以前このコラムで書いたことですが、地球で我々が使用しているエネルギーの大部分は太陽のおかげです。化石燃料も元をただせば光合成です。ただ、その時間軸があまりにも違うのです。後で別なコラムで書きますが、化石燃料の酸化速度は早く、燃焼反応から得られる動力は使いやすいのですが、光合成のようにCO2を固定する反応(一般には炭素の還元反応)はその速度が遅いのです。図1のバタフライ型の循環図には時間の要素が入っていないために同じように循環すると短絡的なイメージが植え付けられる可能性があります。もちろん図1を書いたEllen MacAthurの担当者らはよくわかっています。よくわかっていながら書いているのがポイントです。