センター長より

センター長コラムvol.4「金属素材と高分子素材の違い」

金属素材と高分子素材の違い

前回海洋プラのことを書きましたので、さらにプラスチックについて続きを書きます。もう一つのショックである中国の輸入禁止措置です。この情報が世界に流れたのは、2017年でした。日本でもいち早く対応を考えた方がいます。比較的まじめに中国輸出を行っていた方です。相談を受けるようになったのも2017年です。ただ、始めは私なんかもどこかで“本当かな?実質上の抜け道ができるのではないか”と思っていました。環境省や経産省と話しても2017年はそれほど強い反応はなかったと思います。ところが、2018年になり、実質禁輸措置が取られ始め、リサイクラーの現場は混乱を始めました。その後一部東南アジアの国を使った抜け道もあったようですが、そのルートも今は厳しく取り締まられているようです。これらの措置に反応が早かったのが欧米でした。米国のISRI(米国リサイクル協会)は、いち早くこの措置は問題であると意見を出しました。EUも、ちょうど直近に提案したサーキュラーエコノミー(CE)政策の目玉の一つとして、やっきになってEU内のリサイクルの促進をこれまで以上に叫ぶようになりました。平たく言えば先進国のプラスチックのマテリアルリサイクルのある部分は、中国が担っていたことになります。

さて、この話はプラスチックの素材としての本質的な点を理解しないといけませんので、一部コラムには似つかわしくない少し専門的な基礎の話をします。特に中身を理解していただくために金属素材、今回はベースメタルとの比較をします。

皆さん、高分子素材、プラスチックの構造を考えたことがありますか?大変バラエティに富んでいる素材なので、これも汎用プラスチックであるポリエチレン(PE)を例に示します。PEは熱可塑性のプラスチックです。熱可塑性とは熱をかけると軟化し、流動化します。したがって、少し熱をかけて加工すると、大変加工しやすく、精度よく形状が作れます。ただし、そのぶん耐熱性が劣ります。もともと[-CH2-CH2-]n と表記され、エチレン基が重合したものです。この重合がポイントです。エチレンそのものは通常の温度ではガスですが、重合することで固体になります。それも数千から数万の分子の重合になります。

その様子を図1に示します。これが、3次元的に絡んで組み立てられているのがポリエチレンです。(図2)

エチレンの重合のイメージ図
図1 エチレンの重合の様子   高校化学Net参考書 http://ko-ko-kagaku.net/kagakukiso/4_11_koubunshikagoubutu.html

 

 

高分子ポリマーの3次元構造概略図
図2 高分子ポリマーの3次元構造概略図  日刊工業新聞 https://pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file566f5fa94bef9.pdf

 

重合した鎖状のポリマーは分子結合で強い力で結ばれていますが、後はポリマー同士の結合が比較的弱いファンデルワールス力と3次元的な絡み合いで形ができます。さてなぜこのようなことを紹介しているかと言えば、熱可塑性のプラスチックの強度はポリマーの重合度と3次元的な分子の絡み合いによって決まるということを理解していただきたいためです。したがって、プラスチックの性能は大きくこの二つの特性で決まります。後、そのほかに多くの添加剤が添加されます。耐候性(紫外線などへの抵抗力)を高めるための添加剤、防火性を上げる為の難燃剤などたくさんあります。そのほか含水珪酸マグネシウム(タルクと称する)なども剛性、耐熱性、寸法安定性の向上のために添加されます。この話をしだすと終わりませんので、ここまでにします。

一方金属はどうでしょうか?代表例として鉄を参考にします。まず、鉄は合金で使用されますが、本質的に金属結合で構成されており、金属の本質的な性質はそこで決まります。強度、耐熱性、電気伝導性がいいのが特徴です。ただ、鉄の細かな性能は高分子と同様組織に依存します。組織を制御するために結構添加元素を加えます。鉄鋼材料の研究は組織制御の歴史みたいなものです。

鉄鋼の組織写真
図3 鉄鋼の組織写真例  北海道大学 大学院工学研究院・大学工学院 えんじにあRing https://www.eng.hokudai.ac.jp/commonfile/pdf/e388.pdf 

 

したがって、純粋な鉄元素ではありません。ただ、プラスチックほど多様な添加物(多くがプラスチック成分以外)は使われません。つまり、金属は大きく成分が変わらないので、融かせばかなりな性能を発揮することができます。

鉄は金属として高性能リサイクルが難しい金属ですが、電気炉の再溶解で薄板まで製造できるようになりました。基本的にマテリアルリサイクルがしやすいのです。逆に言うと、レベルはともかく金属はマテリアルリサイクル以外考えにくいのです。その点、プラスチックは元が油や石炭ですから最後には燃焼によるエネルギー回収という方法が取れます。これが結構魅力的なためにマテリアルリサイクルがされない部分があります。

以上のように、金属とプラスチックは本質的に異なる材料ということをしっかり頭に入れましょう。

 

さて、次はリサイクル技術とこれからの考え方をまとめます。