センター長より

【第5回】中村 崇のサーキュラーエコノミー塾

サーキュラーエコノミー塾

資源循環は脱炭素に貢献できるか(1)

中村 崇

 以前、「リサイクルと省エネルギー」という題でコラムを書きました。
今回は、本質的に同じことです。ただ少し考える枠が大きくなっています。
つまり“リサイクル”“資源循環”となり、“省エネルギー”“脱炭素”となっています。

まずは、この言葉の違いで何が違うのかを明確にしましょう。

資源循環とリサイクルでは、当然資源循環の方が幅広い意味を持ち、リサイクルはその一部となります。
一般にリユース、リサイクルと表現されますが、素材だとリサイクルですが、製品だとリユースが優先され、脱炭素に与える効果も大きくなります。省エネルギーと脱炭素の違いですが、以前は全く同義語でした。

最近は意味合いが異なります。

脱炭素は、従来の化石燃料を使わないといいわけですから多少エネルギー効率が悪くても、風力や太陽光等の再生可能エネルギーを使えば脱炭素になります。また、資源循環の最終目的は、脱炭素でなく、限りある枯渇性の資源、例えば鉱物資源の消費抑制を行い、最終的には循環資源ですべてをまかなうようなことを目指し、その点から真にサステナブルな社会の構築を目指します。
脱炭素は、気候変動をなくし、温暖化を止めるのが最終目標になります。

この2~3年は、脱炭素の方が優先されている感が高いですが、本来どちらが上位概念であるということではなく、同時に達成すべきものです。
多くのリサイクルは基本省資源であり、省エネルギーに貢献するので、省エネにつながっています。しかもこの両者は多くの場合、トレードオフにならずに行動できるので、常にお互いの目標の同時達成を目指すべきです。

ただ、我々は目的を絞った場合、全体を見渡すことなく、一点のみを課題として後は気にせずまい進することがあるので、注意は必要です。

 それでは、具体的な行動について考えてみましょう。
図1に以前使用したエレンマッカーサー財団が提案している資源循環の図を再掲します(1)。

図1
図1 エレンマッカーサー財団が示した資源循環図(環境省訳)

まず資源循環です。

従来から我が国が取り組んでいるリデュース、リユース、リサイクル(3Rs)としてとらえれば抵抗なく受け入れられますし、具体的な行動もすぐにイメージできます。対象となる物質“もの”は大きく2つに分けられます。一つは太陽光で再生可能な生物系資源です。これは、太陽光で再生が可能なので、脱炭素とも関係し、少し複雑になります。図の左側の循環になります。

バイオ系資源は、食料として使用される場合と材料として使用される場合があります。炭素が関係しますので、もう一つエネルギーキャリアーとしての役目も果たします。
最近活発になったバイオマス発電ですが、これは電力を作るのに木材チップを使い、木材は光合成でできているので、大気中のCO2から考えるとバランスがとれているから大丈夫との表現がされます。

ただ、注意しておかないと光合成で木が成長し、森林となるには長時間かかりますが、バイオマス発電では一瞬のうちに消費をしてしまい、時間軸を考慮すると全くバランスが取れません。
バイオ系で直接的に重要なのは、農業牧畜生産食料供給、それらの廃棄物処理になります。

我々人間も生物ですから食料が必要です。
よく言われますが、肉を生産するのは多くの植物資源が必要で、その観点からバイオ肉(大豆等を加工し、味付けを行うことで肉の栄養かつ味を持たせている)を供給することも始まっています。
ここでも生産と消費のバランスが重要ですが、食料として使用するものは、エネルギーを作る場合と異なり、それほどアンバランスにはなりません。
もちろん、一時的、かつ地域的はバランスが取れないこともありますが、大きな問題になりにくいのは、人間も生きているという意味ではバイオ系に属しているからと言えます。

ところで、動物の排泄物、人間の場合の食品ロス(加工ロスも含む)は大量です。
バイオ系ではこれを循環するのに、古くは土壌のバクテリアが働き、最終的には光合成を経て循環していたと言えますが、最近の様子はそう簡単ではありません。したがって、積極的に発酵技術を利用して、メタン等を製造し、それを化学製品の合成やエネルギーに変えることを行っています。
いわゆるメタン発酵技術です。
この場合、物質として完全に循環できませんが、大半は液肥と発酵ガスになり、有効利用できます。ただ、ここでも有効利用であるが、生成されたメタンガスは、燃焼されてエネルギーに変換されると最終的にはCO2となり、脱炭素には貢献しないことになります。
ここがバイオ系物質の循環の難しさになります。

続く

 

参考文献
(1)GROWTH WITHIN :A CIRCULATORY ECONOMY VISON For A COMPETITIVE EUROPE 
   https://ellenmacarthurfoundation.org/growth-within-a-circular-economy-vision-for-a-competitive-europe